登場人物
北見 市蔵 (きたみいちぞう)

『ひたすら堕ちゆく、投げ込まれし小石の如く』

甘美な『死』の誘惑と、苦渋に満ちた…しかし決して捨てえぬ『生』への執着。
表裏一体の自己愛と自暴自棄。


 本編の主人公。

 裕福な家の長男に生まれる。もともと豊かな旧家だったが入り婿の父が起業した会社が戦争で大儲けし、ますます資産が増えていった。母は既に他界。父親を嫌って家を出た後、現在もダラダラと隠遁生活を続けている。

 人間嫌いの性向が強く、労働意欲もない。西洋の精神医学を研究していると自称しているが、仕事をしている様子はない。金が尽きれば、臆面もなく軽蔑しているはずの父親の所に無心に行く。猟奇SM雑誌の読者欄に投稿したり、同好の士と文通したりして、自堕落な日々を送っている。

丘 百合乃 (おかゆりの) cv.朝咲そよ

『情欲の炎に身を焦がす迷える聖母(マリア)』

信仰と情欲の狭間、常に迷いその身をよじる。
堕落と懺悔を繰り返し続ける心弱き憐れな存在――


Character.

 孤児院ロザリオ園のシスターであるが、彼女自身もこの園で育った孤児である。八年前、現院長である修道女に捨て子として拾われている。不幸な出自にも関わらず、百合乃は心優しく美しい少女に育つ。敬虔なクリスチャンとなった彼女は、成長後も園に残って奉仕活動を行っている。孤児に注がれる深い愛情は人々の心を打ち、いつしか『孤児院のマリア』なる評判を得るに至る。

 市蔵との関係は、彼が気まぐれで行ったロザリオ園への寄付をきっかけとしている。市蔵にはただの子供じみた父親への反抗心に過ぎない寄付金も、孤児百合乃にとっては素晴らしい贈り物であった。当時の幼い百合乃は市蔵へ礼状を送る。拙いながらも穢れない誠意に満ちたその内容に、さすがの市蔵も無碍にうち捨てることは出来ず、うやむやのうち善良なるロザリオ園の一支援者を演じ続け現在に至る。ヒトデナシに残ったかすかな良心であろうか、その後も手紙のやり取りのみに終始し、その姿は一度も百合乃の前に現したことはない。

 とはいえ百合乃は彼の愚かな苦悩など知る由もない。いつも自分のことをあたたかく見守ってくれる、憧れの人…彼女にとって市蔵は素晴らしい『足長おじさん』なのである。

柘榴 (ざくろ) cv.田中美智 

『女はこの世の底から、その瞳(め)に天を映す――』

何事も求めず、何事も拒むことはない。
背中の刺青は地に這う宿命の十字架である。
同じく地を這うすべてのもののすべての罪を贖うため――


Character.

 マスカレヱドに現れる、虚しく乾いた瞳をした刺青(しせい)の女。柘榴と呼ばれていること、その背に見事な龍の刺青のあること。それ以外はすべてが謎。その国籍すら不明である。

 市蔵は初めて訪れたマスカレヱドで、半ば見世物の如く舞台に引き出された彼女と出会う。荒縄で縛られ、大勢の客の前で乳房を弄られる柘榴の姿に市蔵は大いに興奮する。食い入るように見つめる市蔵の好奇の視線に不意にぶつかる柘榴の視線。視線はすぐに流れ過ぎるが、その暗い瞳は市蔵に深い印象を与えた。

 その後もマスカレヱドの舞台に上げられるたび、柘榴はどんな苛烈な行為すらも受け入れる。しかし拒む様子はまるでない。むしろ責め苦を与えられるたびにその姿は輝くようにも思えた。そんな柘榴に市蔵は次第に興味を惹かれていく。

 後に市蔵はマスカレヱドの権利と共に柘榴を手に入れることになるのだが…

芳野 翠子 (よしのみどりこ) cv.涼森ちさと

『あでやかに咲き誇る退廃の赫き薔薇』

時代という激流に立ち向かう女。
激しく咲き誇り乱れ散る、薔薇色の人生(ラ・ビ・アン・ローズ)――


Character.

 マスカレヱドに現れる豪奢な身なりの妖艶な美女。銀座の高級カフェーのホステスだがパトロン探しに困ってる様子はない。自らその魅力を自覚し、愚かな男たちを振り回すことを楽しんでいる。マスカレヱドにはパトロンの一人の連れとして登場した。

 常に有力なパトロンの間を渡り歩いているが、プライド高く、男に媚びるようなことはない。自分自身に強い自信があり、全てにおいて失敗を考えようともしない。事実、男勝りな度胸のよさと巧みな人心掌握術による非常な商才で、次第にマスカレヱドにも強い影響力を持つようになっていく。

 なお本人は過去のことを語ろうとしないが、時々漏らす訛りによれば関西京都方面出身らしい。

ローザ cv.森川陽子 

『その少女、天使のように可憐、悪魔のように残酷――』

碧眼(サファイア)の奥に宿る真紅(ルビー)の狂気に気付ける者は幸いだ。
彼女は微笑のままに獲物の喉笛を噛み千切る凶暴な野獣。
完全なる無垢ゆえの完全なる冷酷。

Character.

 金髪碧眼の西洋人の娘ローザは翠子の連れとしてマスカレヱドに登場した。黒いドレスに身を包んだ、まるで人形のように可憐な美少女の登場にマスカレヱドはにわかに色めきたつ。しかし歓呼の声はすぐに戦慄の沈黙に塗り替えられてしまう。無遠慮に触れたうかつな紳士の頬をローザの爪が引き裂いたからである。客はそこで初めて少女の凶暴性に気づいたのである。

 この獣のような少女がどのようにして翠子のもとにやってきたのかは不明。その容姿の完璧な美しさ、豹のようにしなやかな身のこなしにどこか生まれのよさを感じられないこともないのだが…。

田辺 小梅 (たなべこうめ) cv.佐々木あかり

『光なき盲(めしい)の少女が、すべてを照らす』

限りない暗闇の中で惑う者たち。
照らすのはかすかなともしび――


Character. 

 市蔵の身の回りの世話をしてくれる盲目の無口な侍女。まだ若いがきちんと家事はこなす。いつも静かに微笑んでいる娘。

 元々は、父親が雇っていた女中のひとり。幼い頃から共に生活してきた妹のような存在である。市蔵の周りには、怪しい雑誌や秘密の郵便物など、他人に見られては困るものが多いので、むしろ彼女が盲目であることは、市蔵にとって好都合である。


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