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物語―― ●発端 ・古物商店主から市蔵への手紙 お尋ねの「マスカレヱド」件ですが、あの会合は秘密厳守の会員制となっております。残念ながら、場所も日時も明かすことはできません。身分や人格など社会的に信用の置ける極く少数の会員のみで閉鎖的に運営されているというのが実情です。……しかし。北見様は当古物商店の上得意様でもあり、信頼に足る人物だということは重々承知いたしております。そこでどうでしょう。以下の会員規則に目を通して、それに同意していただけるようであれば、北見様を「マスカレヱド」の会員として正式にお迎えしたいと思います。 会員規則だと……。なるほど…。秘密厳守に関する注意書きが随分と多いな…。他人の素性の詮索も禁じられているわけか。…ナァニ、そんなことはむしろ、願ったり叶ったりだ。 市蔵はニヤリと笑うと、古物商の店主に宛てて入会希望の手紙をしたため投函を命じたのでございます。 |
・百合乃から市蔵への手紙 たいそうご無沙汰いたしておりました。おじ様、覚えていらっしゃいますか?孤児院・ロザリオ園の百合乃です。わたしはあれからすっかり身体も丈夫になりました。おまけに先月から、ロザリオ園の正式職員として、働かせてもらっているのです。うれしい! すべて、おじ様のおかげです。ほんとうにありがとうございました。このたびはご報告とお礼まで。――百合乃。 市蔵は百合乃への返事を書きます。 |
●展開 マスカレヱドでの倒錯の世界にのめり込んでゆく市蔵。倶楽部に現れた美女翠子の危険な魅力も市蔵を惑わせる。さらに彼女の従者、残酷な狩猟者ローザの登場。倶楽部はさらに混沌とし、妖しく燃える。 次第に倶楽部内での影響力を増しながら、やがて市蔵は事業に失敗した貿易商に代わり、マスカレヱドをオーナーとして引き継ぐこととなる。同時に柘榴の所有者にもなり市蔵は確実に人としての道を外れていく。自らの陥った堕落の谷の深さにおののく市蔵であったが、ヒトデナシ市蔵にはその蜜の味から、自らを遠ざけるような意思の力はあるはずもなかった。 そんな彼のか細いよりどころは聖女百合乃であった。だが、書簡を往復するうちにお互いの距離は意外な形で接近しつつあった…。 |
――ヒトデナシと二人の少女の倒錯の世界 マスカレヱドは様々な人間の欲望を呑み込んで、ますます苛烈さを増し酸鼻を極める。柘榴との刺激的な生活は中毒性を持って、どんどんと市蔵を犯してゆく。昨日の刺激は今日はもう効かない…。 やがて市蔵は無垢で可憐な宝物のような少女、百合乃さえもその手に穢してしまう。しかし恥辱は百合乃をかえって美しくしてゆき、市蔵を驚かせる…。倒錯に彩られた二重生活が加速をつけて滑り降りて続く……。 彼を愛するまったく違う性質と生まれを持つ二人の少女。 導き導かれながら、主人公は倒錯にのめり込んでゆく。 終わりのない不安と絶望に苛まれる日々。 倒錯の刺激はモルヒネ。市蔵はヒトデナシ。もはや堕ちてゆく先は…。 |