【灯夜】「えっと……大丈夫ですか?」
【梨緒】(灯夜……? 嘘、どうして……)
【灯夜】「具合が悪いようでしたら、係の人を呼んできますけど……」
ドア一枚向こうに、灯夜がいる。あたしに声を掛けてきてくれている。
【梨緒】「ん、んん! んむぅ!」
……どうして。
なんであたしは、この肉の塊から、唇を離せないんだろう。
最初に脅された時もそうだった。今も、助けての一言さえ言えれば、
コイツとあたしの主従関係はご破算にできる。
――それなのに、あたしは、たった一つの勇気すら振り絞ることができなかった。
【梨緒】(……だめ……灯夜に、あたしの汚いとこ、見られたくない……)
【梨緒】(フェラ、してるなんて……他人のペニス頬張ってるなんて知ったら、
灯夜が悲しむから……)
【梨緒】「っ……! ッ~~~!」
足を伸ばして、二回ドアを叩く。
お腹の調子が悪い人が、いらついてするような乱暴さで。
【灯夜】「……すみません、お邪魔しました。お大事にしてくださいね」
乱雑なノックを受けて、灯夜の声はそれっきりしなくなった。
トイレの中が、また二人きりの空間に戻る。
【梨緒】「う……うぅ……うぅぅ……!」
ほっとした次の瞬間、後悔と絶望が襲ってくる。
あたしは……灯夜の助けより、目の前の男性器を選んだのかもしれない……。 |
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